さくらは会社や先輩社員たちへの恩義を感じて仕事をしてきたことはなかったのだ。
 もちろん、仕事を教えてくれたことに関しての感謝の気持ちはある。だが、それはどこか当然のことのように思っていたのだ。
 雄哉のように純粋に感謝し、恩を感じて仕事などしたことがなかったさくらにとって、雄哉は自分の世界にいない存在だった。
「って、すみません! 俺ばっかりペラペラ話しちゃって……。退屈でしたよね?」
「いえ、そんなことないですよ。楽しいです」
 黙ってしまったさくらに不安を覚えた雄哉だったが、さくらからの言葉に安心したようだった。
 それから二人は()(あい)ない会話をしながら昼休憩の時間を過ごした。
 雄哉の口から出る言葉はどれもがさくらにとって新鮮で、驚かされることが多かった。
(そうか……。この人、大輔くんと似てるんだ……)
 話をしているうちにさくらはそう感じた。
 (だい)(すけ)も、さくらの知らない世界を見ていた。さくらはその話を大輔から聞くのが楽しく、一緒にいたいと感じていたのだ。
 今目の前にいる雄哉もそうだ。
 さくらが思っていなかったことを、スラスラと言葉にして表してくれる。それはさくらの世界にはない感情だったのだ。