「いやぁ、本当に今日は、前田さんに助けて貰(もら)ってばかりで……。本当、ありがとうございます！」
「気にしないでください」
「いやいや！　このご恩はいつかきっと！」
　雄(ゆう)哉(や)は相変わらずよく喋(しゃべ)る男だった。
　さくらは基本的に雄哉の話に相づちを打つだけだったのだが、
「そう言えば、近藤さんとの商談が上(う)手(ま)くいったと聞きましたけど……」
「そうなんです！」
　さくらからの言葉に、雄哉の声が一層弾んだ。
　雄哉が就職活動をしているとき、最後の一社として選んだのが今勤めている会社なのだそうだ。今の会社は雄哉の入社を快く受け入れてくれ、さらに、先輩社員たちからも可(か)愛(わい)がって貰(もら)っているのだそうだ。
「だから俺、早く一人前になって、会社にも先輩たちにも、恩返しがしたくて……。近藤さんとの話がまとまったとき、本当に嬉(うれ)しかったんですよ！」
　これで一人前になれた。
　ようやくここから、雄哉は自分らしく今までの恩を返していける。
「あの時、エントランスで前田さんに助けて貰わなかったら、こんなことは起きなかったので、本当、前田さんにも感謝っす！」
　そう話す雄哉の顔は晴れやかで明るい。
　さくらはそんな雄哉の言葉に驚かされた。