声をかけられた雄哉が驚いたように後ろを振り返る。その顔はやはり大輔とは全く似ていない。
　さくらを見つけた雄哉はホッとしたような、地獄に仏を見つけたような、そんな安(あん)堵(ど)の表情を浮かべている。
「前田さん！　良かったぁ～……。実は……」
　雄哉はさくらに自分がここにいる経緯を説明してくれた。
　近藤との商談が上(う)手(ま)くいき、雄哉はその人柄を近藤に気に入られたようだった。
　近藤は是非、自社の社員食堂で昼食を食べて行きなさい、と言ってくれたようで、雄哉はその言葉を律儀に守ろうとしたのだ。しかし、
「こんな大きな社員食堂、俺、初めてで……。勝手が分からず困っていたんです」
　そこへ現れたのがさくら、と言う訳だ。
　さくらはなるほど、と納得すると、
「私と同じ物でもいいですか？」
　そう雄哉に尋ねる。雄哉は驚いた表情をしたものの、すぐに、
「いいんですかっ？」
「えぇ。私と同じ物でいいなら、まとめて注文してきます」
　さくらの言葉に雄哉は嬉(うれ)しそうに笑っていた。
　その笑顔に、さくらの心が揺らいだ気がした。
　注文を終えた二人は、そのまま一緒に昼食を摂(と)ることになった。