雄哉を部屋に待たせ、さくらは午前中にある自分の業務へと戻った。
(そう言えば、大輔くんも最初、良く話す子だったっけ……)
 さくらは午前中に出会った雄哉がきっかけで、忘れかけていた(だい)(すけ)との思い出を思い出していた。
 それは高三の春のオリエンテーションを終えた頃の話だ。
 どうしてもさくらが気になっていた大輔は、教室でさくらを見かけると駆け寄り、そして前日にあったテレビの話を良くしてくれていた。何気ない会話だったが、当時のさくらは何故(なぜ)大輔がここまで自分のことを構うのか全く分からなかった。
 今思うと、大輔がさくらの気を引こうとしていたのは明らかなのだが、恋愛経験が全くなかった当時のさくらは不思議でならなかった。
(って、私は何を考えているの? 今は仕事に集中しないと……)
 さくらは思い出を振り払うように頭を左右に振る。
 それでも思い出されるのは、封印したはずの高校三年の頃の記憶たちだった。
(もう、なんで……? あの人は、顔も声も、全然大輔くんとは似ていないのに……)
 そう思えば思うほど、大輔との思い出がさくらを苦しめる。
 なかなか仕事がはかどらないまま、さくらは午前中の業務を終えることとなった。