「それは大変ですね」
　と、義務的な返答しかできない。
「今まで先輩たちについて回ってただけなんで、一人で出来るか緊張してまして……。あの、近藤さんって、どんな方ですか？」
　恐る恐ると言う風に聞かれた言葉に、さくらは思わず足を止め、雄哉の方を見やった。その時のさくらの顔があまりにも険しかったからか、
「いやっ！　変な意味ではないんですよ！」
　雄(ゆう)哉(や)が慌てたように弁明する。
　どうやら雄哉は他社から来た営業マンのようだ。
　雄哉の会社の商品を、近藤にプレゼンしに来た、と言う訳だ。
「初めて一人でやるんで、緊張しちゃって……」
　さくらはそんな雄哉へ冷ややかな視線を送っていたのだが、
「近藤さんは、仕事熱心で真面目な方ですよ」
　そう答えるにとどまった。
「そうなんですかっ？　良かった……」
　さくらの回答に雄哉は何だか安心したようだった。
（よく喋(しゃべ)る、変な人……）
　雄哉に対するさくらの第一印象はこれだった。
　さくらは再び雄哉へ背を向けると、近藤から指定された部屋へと案内するのだった。