菜月はちょっと言いにくそうに言葉を濁す。それから意を決したようにこう言った。
『今夜、合コンに付き合って!』
「え?」
 予想だにしなかった菜月からのお願いに、さくらは目を白黒とさせた。
『実は、欠員が出ちゃって……。女の子、一人足りないの!』
 しかも、菜月の周りの女友達にはほとんど彼氏や旦那がおり、頼める相手が今、さくらしかいないというものだった。
「なっちゃん……」
 さくらは少し(あき)れたように菜月を呼ぶ。菜月は本当に困っているようで、
『費用とか、私が出すから! ねっ? お願いだよ~……』
 そう言って、今にも泣き出しそうな声で懇願してきた。
(困ったな……)
 さくらはどうしたものかと思案する。
 別に菜月の願いを(かな)えたくない訳ではない。ただ、問題はその内容なのだ。
 さくらは迷った挙げ句、
「なっちゃん、ごめんね? やっぱり、合コンって言うのはちょっと……」
 さくらは心苦しくなりながらも断りの言葉を口にする。
『もしかして、さくら、まだ(だい)(すけ)くんのこと……?』
「……」
『もう、あれから何年も()ってるんだし、さくらの傷も癒えたかなって思ったんだけど……』
「ごめんね」
『ううん。こっちこそ、無理なこと言ってごめん』