さくらが休みの日に外に出ると、外にはカップルたちの姿もあった。彼女たちは一様に、愛する彼の隣で笑っていた。彼もまた、彼女のそんな笑顔につられるように笑っている。
 そんなカップルたちの姿を目にするたびに、さくらは彼らの笑顔が少し(まぶ)しく感じるのだった。
(私はもう、誰かの隣で笑い合う自分なんて、想像がつかない……)
 それは(うらや)ましいとか、自分の感情が凍ってしまったことを残念に思うとか、そう言う気持ちに近かったのかもしれない。
 さくらは町に出ると会社では感じない惨めな気持ちになるのだった。
 こうしてさくらは、なるべく家と職場の往復をするだけの日々を過ごすようにした。職場では町に出た時のような惨めな気持ちにならなくて済んだのだ。
 そうして始まった、社会人三年目の春だった。
 新入社員が入社する前に辞めたり、新作ドリンクのミーティングがあったりとバタバタとしていたが、さくらはその日、たまたま一階のエントランスを通りがかった。
 その時、受付の目の前でカバンから書類をばらまいてしまった男性サラリーマンを見かけた。
 さくらは思わず駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
 さくらは彼にそう声をかけると、落ちている書類を手際よく拾っていく。
 彼は相当慌てていたようで、