この頃のさくらはまだ入社したてで、目立った業績も上げていなかったのだ。
「それにね、恋愛イコール依存と考えるのは間違ってるわよ」
 お局様はコンコンと説教をしてくる。
 恋愛をすれば、楽しいことは二倍に、ツラいことは半分になっていく、と。
「誰かと分かち合う、それが恋愛ってものではないかしら?」
 それに、恋愛の先に結婚が待っている。
 結婚をすれば、家族が増え、そして子供も出来たら人生が(にぎ)やかで華やかになる。
 お局様はそう、持論を展開してきた。
 さくらはそんな話は聞きたくなかったが、今ここで彼女の機嫌を損ねるわけにはいかないと判断し、適当な相づちを打って愛想笑いを浮かべていたのだった。
 しかし内心では、
(何も知らないくせに。自分の価値観を押しつけないで)
 そう黒い感情が喉元まで出かかっていた。
 入社して一年もすると、さくらの業績は安定してきた。
 相変わらずさくらに告白する人間は後を絶たなかったのだが、さくらはそんな男性たちの相手は一切せず、仕事に打ち込むことで自らの精神を安定させていたのだった。
 こうしたさくらの様子を面白くないと感じるのは、お局様を含めた女性社員たちだった。