(うつ)ろな目をしたさくらに、カウンセラーは言う。
「責めてる訳じゃないの。ただ、前田さんには前田さんの人生が、この先も続いていくのよ」
 カウンセラーの言葉はさくらには届かない。
 さくらはそんな人生、ただの悪夢だと思った。
「大丈夫。受験戦争を勝ち抜いたあなたなら、きっと今の逆境も乗り越えられるわ」
(勝ちたくて勝った訳じゃないのに……)
 さくらは内心で反論するも、それを言葉に出す気力はない。
(この無意味なカウンセリングは、いつまで続くものなのだろうか……)
 カウンセリングの時間、思うことはただこれだけだった。
 季節が春本番となったゴールデンウィーク中、菜月が久しぶりにさくらの元を訪れてくれた。菜月もまた、大学進学を行っており、さくらとは別の大学で学生生活を送っていたのだ。
「さくら、やっぱり、まだツライ?」
「なっちゃん……」
 さくらは菜月の顔を見ると、胸がキュッと苦しくなった。
 同時に(だい)(すけ)と一緒にいた頃の記憶が(よみがえ)る。
(こんなはずじゃ、なかったのに……)
 悔しさからなのか、悲しみからなのか、さくらの目から大粒の涙が(あふ)()してきた。菜月はそんなさくらの頭をギュッと抱きしめる。