「でも、俺は勉強嫌いだしさ。やりたいこともあるから、やっぱり就職ってのは譲れないんだよね」
 そう言う大輔の瞳には、初秋の夕日が映っていた。夏休みの時とは違う、少しだけ力を失ったような、そんな夕日だとさくらは感じていた。
「さくらこそ、志望校、どうすんの?」
「志望校、かぁ……」
 大輔からの質問にさくらは言葉を濁す。
「やりたいこと、ないの?」
 大輔からの追撃に、さくらは言葉を詰まらせてしまった。
(私が、やりたいこと……?)
 親が言うから、高校に進学した。親が言うから、大学進学を希望している。
 そんな自分のやりたいことなど、さくらにはないに等しかった。
(出来ることならずっと、こんな風に大輔くんと……)
 そう。
 さくらが望んでいたのは、変わらない日々の日常だった。
 朝、大輔と菜月と会い、学校で何気ない会話を楽しみ、授業を受け、そしてまた大輔と肩を並べて下校する。
 そんな日常の繰り返しを、さくらは望んでいた。
 しかし時間は進み、季節は進んで行く。
 どうしても止まってはくれないのだ。
 黙り込んでしまったさくらの頭を、大輔は黙ってポンポンと(たた)いた。
「さくらはさ、考えすぎるところあるから! 大丈夫だって! そのうちやりたいこと、見つかるって!」