後ろから近付くバイク音に、さくらは道を譲ろうとガードレールの方に身体を寄せた。するとバイク音はさくらのすぐ(そば)で止まり、
「おはよう! さくら!」
 半ヘルメットを被ってやってきたのは、大輔だった。
「大輔くん……。また、無免許運転?」
 さくらは半ば(あき)れたようにそう言う。夏休みの始めに交わした会話を、さくらは忘れてはいなかったのだ。
 そんなさくらへ、大輔はこれみよがしに財布からカードを取り出し、さくらの眼前へ突きつけてきた。それを見たさくらが目を見開く。
「運転免許証……?」
「そう! 取ってきた! 昨日!」
 大輔もまた、さくらが無免許運転に対していい顔をしていなかったことを覚えていたのだ。
「さくらを驚かしたくて、黙ってたんだけど、逆に変な心配かけさせて悪かった!」
 大輔はそう言うと、さくらに頭を下げる。
 路上でのそんなやり取りに、さくらは慌てた。
「か、顔を上げてよ! 大輔くん! 私は、大丈夫だから!」
「いや! さくらに余計な心配をかけた俺が悪い!」
 なおも言い募る大輔に、さくらはフッと表情を和らげた。
「怒ってないよ?」
 やわらかな声音で言われ、大輔はようやく顔を上げる。
「本当?」
「本当」