大輔は本当に嬉(うれ)しそうに、笑顔でさくらに約束を取り付けた。その笑顔がさくらは印象的で、ドキドキする胸の鼓動の奥に、温かさを感じるのだった。
　こうして迎えた夏祭り当日。
　さくらは母親に手伝ってもらい、藍色の朝顔柄の浴衣に身を包んだ。それから長い黒髪を上の方で一つにまとめる。
（変……、じゃ、ないよね……？）
　鏡の前で何度も自分の姿を確認し、部屋の時計に目をやるとそろそろ家を出る時間だ。
「行ってきまーす！」
　さくらは履き慣れない下(げ)駄(た)をカコカコと鳴らしながら、夏祭り会場である神社に向けて歩き出すのだった。
　神社に近付くにつれて、浴衣姿の人々が増えてきた。みな一様にニコニコしており、この祭りを楽しみにしていたことが伝わる。
　さくらが待ち合わせ場所に到着した時、まだ大輔の姿はなかった。さくらは巾着袋からスマートフォンを取り出すと、メッセージアプリで大輔に到着したことを報(しら)せる。
　それからぼーっと、大輔が現れるのを待っていたのだが、
「お姉さん、お姉さん！　一人？　暇？」
　突然、知らない男性二人組に声をかけられた。
「？」
　さくらがきょとんとしていると、
「俺たちと祭り、見て回らない？」
（えぇっと……、これっていわゆる、ナンパ？）