通話に出たさくらに、菜月は焦ったような声で開口一番こう言った。
「あ、なっちゃん……」
 菜月の声を聞いたさくらは、何だか安心して泣きたくなってしまった。
 どうにか気持ちを落ち着かせ、さくらは今日あった大輔との出来事を菜月に説明する。菜月は(ちゃ)()すでもなく、真剣にさくらの話を聞いてくれた。
『つまり、松本くんに夏祭りに誘われて、ドキドキしちゃったってこと?』
 菜月はさくらの話を要約する。さくらは菜月に見えていないのに、大きくコクコクと(うなず)きを返していた。
『それはもう、さくらは一緒に夏祭りに行くべきだね!』
「えっ?」
『だって、それ、恋、だよ?』
 思わぬ菜月からの言葉に、さくらは返す言葉が見当たらない。
 黙ってしまったさくらに、
『高校三年の夏は一回しかないし、後悔しないようにしな?』
 菜月は真面目にそう言った。
 それを聞いたさくらの気持ちも固まったようで、
「そうだね……。うん、私、松本くんと行ってくるよ! 夏祭り!」
『そうしな! 楽しんでね!』
 さくらの声が明るくなったのを感じたのか、菜月の声も明るく、さくらの背中を優しく押してくれるのだった。