後ろから駆け寄ってきたのは、もちろん大輔である。
「松本くん……」
 さくらはそう言うだけで精一杯だった。
(うそ)つき男になるところだったぜ!」
 大輔はそう言うと、さくらの横に立った。
 その時さくらは、大輔が徒歩であることに気付いた。思わず、
「あれ? バイクは……?」
 そう(たず)ねていた。
 大輔はさくらの言葉に、
「原付きは先輩に返した! 前田さん、二人乗りしたくなさそうだったからさ。歩いてきた!」
 大輔は汗だくになりながらも笑顔でそう答える。
 眼下の海に沈んでいく夕日に照らされたその笑顔は、さくらには(まぶ)しく感じるのだった。
 二人はゆっくり歩きながら、坂道を下っていく。
 共通の話題は夏休みの課題についてだった。
「宿題、多すぎね?」
 大輔はそう言って、不満そうに唇を(とが)らせる。その横顔をさくらはおかしそうに笑って眺めていた。
「あ、そうだ! 前田さん、明後日の夜って暇?」
「明後日? 何かあるの?」
「祭り、行かない?」
 突然の誘いに、さくらの足が止まる。
 確かに、明後日は地元で夏祭りがあったような気がする。
 毎日勉強漬けですっかり忘れていた。
 まさかその祭りに誘われることになるとは。