(そば)に来ていた菜月が同じように窓際でじゃれ合っている男子たちを見てそう言った。
「なっちゃん、知り合い?」
 思わず(たず)ねるさくらに、菜月は、ううん、と首を振る。
「でも有名人だよ」
「そうなんだ」
 さくらには彼――(まつ)(もと)(だい)(すけ)が何で有名なのかまでは興味がなかった。ただ、目立つ男子だな、と言う印象は確かに抱いたのだった。 
 クラス替えや自己紹介が無事に終わり、(おの)(おの)が少しずつ新しい環境に慣れ始めた頃。
 さくらの学校ではオリエンテーションと称して班に分かれ、遊園地へ行くことが通例になっていた。
 さくらは菜月と同じ班になった。同じ班の男子にはクラス替えの日に目立っていた茶髪の男子、松本大輔も一緒である。
 オリエンテーションに向けての計画を立てる際、さくらは彼がどう『有名人』であるのかを痛感することになった。
「タバコ、持ってっていいかな?」
「は?」
 高校生の口から出てきたとは思えない単語に、さくらは耳を疑う。
「ダメ?」
「ダメに決まってるでしょ!」
 反論したのはさくらではなく菜月だった。
 菜月の強い言葉に、(だい)(すけ)はいじけたように唇を(とが)らせた。