穏やかな海を囲うようにそびえ立っている山々が、うっすらとピンク色に染まり始め、春の到来を告げている。今日も天気は快晴で、ただ海からの吹いてくる春風はまだ冷たそうだ。
 前田さくらは鏡の前で身支度を調える。
 制服に身を包み、長い黒髪を(くし)でといでから、学生カバンを手に取るとそのまま学校へ向けて歩き出した。
 今日から新学期だ。
 高校生活最後になる一年の始まりの今日、しかしまだ、さくらに受験生という自覚は芽生えてはいなかった。
「おはよう~」
「おはよう」
 登校中に何人もの同級生と挨拶を交わす。さくらはそのまま学校の校門をくぐると、まずは新しい教室を掲示板で確認した。自分の名前を探しているとき、同じクラスに(いけ)()()(つき)の名前を見つけ、思わず(ほお)を緩めた。
(なっちゃんと、同じクラスだ……)
 さくらがそう思っていると、
「さーくら!」
「なっちゃんっ?」
「おはよう!」
 元気な声とともに肩を(たた)かれる。現れたのは先程、掲示板で名前を見かけた菜月だった。
「クラス替え、どう?」
 菜月はまだ掲示板を見ていないようで、さくらにそう問いかけた。さくらは人でごった返す掲示板の前で、菜月の名前と自分の名前を指さす。