「いや! すぐにとは言わない! この企画が終わるまでに、返事が欲しい……」
「あの……、山口さん……」
「い、今じゃなくていいんだ! 返事は、今じゃなくて!」
「ごめんなさい」
 必死に言い募る山口だったが、さくらは構わずに言葉を続けた。さくらの『ごめんなさい』を聞いた山口の顔がこわばる。それから緊張したような声音で、
「理由を、聞かせてくれるかい?」
「私、彼氏とか、作る気はないんです」
 さくらはキッパリと言い切った。山口はそんなさくらの言葉に完全に固まってしまっている。
「だから、ごめんなさい」
 さくらはもう一度、断りを入れる。それから、
「話はそれだけでしょうか? もしそうなら、私、帰ってもいいですか?」
 さくらの声音はどこか冷え冷えとしており、聞いているものを威圧する。さくら本人にその気はなかったのだが、完全に固まってしまった山口には少なくともそう取れた。
「あ、あぁ……。すまない……」
 山口はそう返すだけで精一杯だった。
「では、失礼します。お疲れ様でした」
 さくらはミーティングルームに山口を一人残し、帰路に就くことにした。