「シスター! 回復魔法が使えるシスターはいるか!」

 居間にさえ光が灯っていない聖王教会に躊躇無く押し入り、声の限り叫ぶ。程無くして玄関に光が点灯し、ひょこっとシスターが顔を出した。

「こんばんは、笹瀬川ユウさん。ヴァンパイアハンティングの途中での来訪、流石に歓迎しませんよ?」
「いいから回復魔法の使い手は!?」

 目の前の何もない空間が水滴が一滴落ちた水面の如く震動し、この教会の回復魔法が得意なシスターは音も無く現れた。
 空間転移だ。

「随分手酷くやられたようだね、普通の病院なら匙を投げて葬儀場送りだから此処に来るのは必然か。やれやれ、死にかけている者がいるのなら見捨てられないわね」

 やや呆れたような顔を浮かべ、それでもシスターは律儀に診察する。
 抱き上げていたシスター・クレアを床に下ろし、彼女達の手に委ねる。素人の自分が出る状況ではない。

「これをこうして、ああしてこう」

 施術を受けると見るからにシスター・クレアの顔色が良くなり、どうやら峠は簡単に越えてくれたと安堵する。
 これで助けれずに死なせてしまった、とかなったら後味が悪い処の話じゃない。
 ほっと一息付いて脱力すると、自身の通信ガラス玉が光る。相手は、無事だったのか!

 

「神父! 無事だったか!」
『あはっ、残念でした!』

 その耳に発せられた声は神父の厳つい声ではなく、狂気を孕んだ少女のものだった。

 彼の通信ガラス玉で彼女が出るという事は――あそこにいたヴァンパイアハンティングをしていた人たちのは彼女との戦闘して敗北し、逃げ切れずに死亡した事に他ならない。

「ッッ!」

 言葉が、出ない。少し前まで一緒に歩いていた人物が殺された、などと認めたくない。
 偶然、彼女が神父の通信ガラス玉を拾って通話を掛けて来た。そうに、違いない。
 そうやって自分を騙そうと思っても、既に彼の死亡が確定済みだと認めている自分を否定出来なかった。

 放心中の自分から、携帯がひったくられる。シスターの仕業だった。一体何を……?

「見境が無いな、ヴァンパイア」
『貴方が聖王教会の司教級シスターさんですか? 一つ聞きたい事が――』
「騎士甲冑を纏った武者なら『帝鬼軍』にしか居ない」
『え?』


 一体、何を言っているのだ? このシスターは。
 見上げた彼の顔は笑っていた。純度100%の悪意を、彼は初めて目の当たりにした。

「何を呆けているんだ? お前の想い人とやらを殺したのは、戦争への復讐に生涯を捧げた一般人の組織である『帝鬼軍』だと言っているんだ。奴等の詳しい情報と居場所は誰もが知ってる街外れの大きな武家屋敷だ」

 そう言い捨てて笹瀬川ユウの通信ガラス玉を投げ返す。

「何故、教えた?」
「何故? 帝鬼軍の奴らの復讐の為に私達『聖王教会勢力』が手酷い傷を負うことになった。ならさっさと問題の帝鬼軍へぶつけて始末してもらった方が良いだろう」
「シスター・フェルミナはここの人だったんだろ?情はないのか」
「噛み付いてくる獰猛な獣にかける情けはないよ」

 話はここで終わりだ、と言わんばかりに司教級シスターは姿を消す。笹瀬川ユウはヴァンパイアハンティングの集合場所へ戻り、少しでも生存者を探すことにした。