突如、死にかけの自分が剣と魔法の中世ヨーロッパ異世界に召喚されるという珍妙極まる事件に対し、真っ先に尋ねた場所が、前世(と仮定する。まうあのゴミ捨て場では死んだも同然だろうし)いつも何かとお世話になっている『教会』だった。
何か異常があれば『教会』で聞け、とは現代超能力バトル世界で生きる上の教訓だった。その教訓を活かし、剣と魔法の異世界中世ヨーロッパでも頼ったのだった。思考放棄とも言うが。
「事情はわかりました。貴方は超能力という魔法が使える。そして、この遠い辺境からやってきて、居場所がない。そうですね?」
「うん。もう4回は違うと説明したけどもうそれで良いよ」
「――なるほど、わかりました。聖王教会は救われぬ者に救いの手を掲げる組織です。衣食住は用意します。しかし何もしないものに差し上げられるほど裕福ではありません。教会のお手伝いお願いしてもらって良いですか?」
「大丈夫です。ええ、お任せください」
「それで貴方はどんな魔法が使えるのですか?」
「風の魔法です」
「風、ですか」
シスターは困ったような顔をする。
「風となると……」
「そうだ、シスター。この教会の汚れや床などを綺麗にしたくはありませんか?」
「できるのならば、ええ。したいです」
「では私の力の一端をご覧に入れましょう。発動せよ、『エメラルド・グリーン』!!」
笹瀬川ユウが、そう叫ぶとユウに右手に5枚の手札が出現する。その中から左手でカードを抜き取り、空中に放り投げる。すると風の塊が小人を作り、教会を瞬く間に綺麗にしていく。
表面の汚れは強風で吹き飛ばし、奥の染みなどは形のない風が浸透して表面へ押し出して吹き飛ばす。
「す、凄い! これがユウさんの風魔法なんですね!」
「超能力……まぁ、ハイ。ソウデス」
「これなら……ユウさん!」
シスターがずい、っと近づいてきてユウの顔を見上げる。
「戦闘の経験もありますか?」
「ありますよ、それなりに」
前世では死線と呼ばれる強敵たちを叩き潰してきた過去がある。それなりに戦える実力があると自信があった。
「なら神父様が夜に行っているヴァンパイアハンティングに参加して頂けませんか?」
「ヴァンパイアハンティング?」
「はい。最近、この近くの街や村で吸血鬼が現れているんです。吸血鬼は血を飲み人を殺す。もしくは眷属としてヴァンパイアを生み出す。なんとか抑えていますが……正直、厳しくて」
「わかりました。ぜひお任せください。そうだ、貴方のお名前を聞かせて貰ってもよろしいですか?」
「はい、私はシスター……」
――その時、唐突に教会の扉が蹴り破られ、厚手のコートに身を包んだ複数の男が乱入してくる。
一目にて尋常ならぬ事態――鎧と宝石がついた杖を持って
「シスターッッ!」
咄嗟に目の前にいるシスターを抱え上げて伏せながら――笹瀬川ユウは己の魂の能力を叫ぶ。
「エメラルド・グリーンッッ!!」
即座に風を集めて壁を形成して集中させ、鋼鉄化させて絶対の防御とする。一瞬遅れて絶え間無く魔法の嵐が叩き込まれるも、その程度の魔法では傷一つ付かない――!
教会の奥から老年の男の声が聞こえる。
「――何処の誰に喧嘩を売ったのか、その生命を代価に教育しましょう。我等の天罰の味を噛み締めるが良い」
そして神父は鋭い杭を生み出す。
「斬滅、撃滅、殲滅です」
三つの光の杭が自在に飛翔し――ほんの少し、剣先が掠っただけで敵対者を原型留めぬ肉塊に変えていく。血の華が銃弾塗れの教会の大聖堂に幾つも咲き誇った。
自動的に舞い、確実に息の根を止める類の武具だったか。使い捨ての尖兵に対して、オーバーキルだった。
「終わったんですか……?」
「シスタークレア、片付けが済むまで見ない方が精神衛生上宜しいと思いますよ。――加減はしなかったもので原型を留めてません」
神父の言葉に同意する。こんな猟奇的な死体、シスターに見せる訳にはいかない。全く前途多難だ。
「――『ゲマトリア・トリニティ』、穢れた狂信者どもがこのタイミングで仕掛けて来ますか……まるで『威力偵察』ですね」
このセカイに巣食う大勢力の一つであり、ほぼ常に敵対する『魔王』と『聖王教会』すら共同して殲滅しようとするテロ組織だったか。
単騎の武力的な危険度で言えば『帝鬼軍』の方が脅威だが、そちらに至っては全員が全員精神が異常な狂人ばかりだ。一人残らず殲滅した方が世の為だろう。
「方針が定まらましたね、シスタークレア。まずは情報収集をします」
「はい。わかりました。神父様」
教会の一室で用意された晩餐を勢い良く食する。パンを一口大に引き千切って、シチューの中に少し浸して放り込む。クリーミーでジューシーな味わいが口の中に広がり、多福感を齎す。
これから厄介事がダース単位で飛んでくるんだ。食べれる内に食べてしまおうと口の中に次々放り込んでいく。他の聖王教会のシスター達が話しかけてくる。
「ユウさんは教会に住む前はどこにいたの?」
「ああ、オレは元々孤児だから、まぁ色んなところを転々としてましたよ」
「そういえば孤児院の子供達はどうしたんだ?」
「既に別の孤児院に避難済みだよ。此処が主戦場になるようだからねぇ」
少し無理矢理にシスターに話題を提供し、実は気になっていた事を聞き出す。
この聖王教会は孤児院と併設して作られており、この世界の最後のセーフティネットの役割を果たしている。だから確かに頭のおかしい連中の襲撃があった場所に子供達を置けない。隔離しておく方が安全だろう。
シスターたちは通常業務に加えて、自己防衛魔法が使えるらしく残っている。
「さて、どうなるかね」
ユウはシチューを食べることに意識を戻した。
何か異常があれば『教会』で聞け、とは現代超能力バトル世界で生きる上の教訓だった。その教訓を活かし、剣と魔法の異世界中世ヨーロッパでも頼ったのだった。思考放棄とも言うが。
「事情はわかりました。貴方は超能力という魔法が使える。そして、この遠い辺境からやってきて、居場所がない。そうですね?」
「うん。もう4回は違うと説明したけどもうそれで良いよ」
「――なるほど、わかりました。聖王教会は救われぬ者に救いの手を掲げる組織です。衣食住は用意します。しかし何もしないものに差し上げられるほど裕福ではありません。教会のお手伝いお願いしてもらって良いですか?」
「大丈夫です。ええ、お任せください」
「それで貴方はどんな魔法が使えるのですか?」
「風の魔法です」
「風、ですか」
シスターは困ったような顔をする。
「風となると……」
「そうだ、シスター。この教会の汚れや床などを綺麗にしたくはありませんか?」
「できるのならば、ええ。したいです」
「では私の力の一端をご覧に入れましょう。発動せよ、『エメラルド・グリーン』!!」
笹瀬川ユウが、そう叫ぶとユウに右手に5枚の手札が出現する。その中から左手でカードを抜き取り、空中に放り投げる。すると風の塊が小人を作り、教会を瞬く間に綺麗にしていく。
表面の汚れは強風で吹き飛ばし、奥の染みなどは形のない風が浸透して表面へ押し出して吹き飛ばす。
「す、凄い! これがユウさんの風魔法なんですね!」
「超能力……まぁ、ハイ。ソウデス」
「これなら……ユウさん!」
シスターがずい、っと近づいてきてユウの顔を見上げる。
「戦闘の経験もありますか?」
「ありますよ、それなりに」
前世では死線と呼ばれる強敵たちを叩き潰してきた過去がある。それなりに戦える実力があると自信があった。
「なら神父様が夜に行っているヴァンパイアハンティングに参加して頂けませんか?」
「ヴァンパイアハンティング?」
「はい。最近、この近くの街や村で吸血鬼が現れているんです。吸血鬼は血を飲み人を殺す。もしくは眷属としてヴァンパイアを生み出す。なんとか抑えていますが……正直、厳しくて」
「わかりました。ぜひお任せください。そうだ、貴方のお名前を聞かせて貰ってもよろしいですか?」
「はい、私はシスター……」
――その時、唐突に教会の扉が蹴り破られ、厚手のコートに身を包んだ複数の男が乱入してくる。
一目にて尋常ならぬ事態――鎧と宝石がついた杖を持って
「シスターッッ!」
咄嗟に目の前にいるシスターを抱え上げて伏せながら――笹瀬川ユウは己の魂の能力を叫ぶ。
「エメラルド・グリーンッッ!!」
即座に風を集めて壁を形成して集中させ、鋼鉄化させて絶対の防御とする。一瞬遅れて絶え間無く魔法の嵐が叩き込まれるも、その程度の魔法では傷一つ付かない――!
教会の奥から老年の男の声が聞こえる。
「――何処の誰に喧嘩を売ったのか、その生命を代価に教育しましょう。我等の天罰の味を噛み締めるが良い」
そして神父は鋭い杭を生み出す。
「斬滅、撃滅、殲滅です」
三つの光の杭が自在に飛翔し――ほんの少し、剣先が掠っただけで敵対者を原型留めぬ肉塊に変えていく。血の華が銃弾塗れの教会の大聖堂に幾つも咲き誇った。
自動的に舞い、確実に息の根を止める類の武具だったか。使い捨ての尖兵に対して、オーバーキルだった。
「終わったんですか……?」
「シスタークレア、片付けが済むまで見ない方が精神衛生上宜しいと思いますよ。――加減はしなかったもので原型を留めてません」
神父の言葉に同意する。こんな猟奇的な死体、シスターに見せる訳にはいかない。全く前途多難だ。
「――『ゲマトリア・トリニティ』、穢れた狂信者どもがこのタイミングで仕掛けて来ますか……まるで『威力偵察』ですね」
このセカイに巣食う大勢力の一つであり、ほぼ常に敵対する『魔王』と『聖王教会』すら共同して殲滅しようとするテロ組織だったか。
単騎の武力的な危険度で言えば『帝鬼軍』の方が脅威だが、そちらに至っては全員が全員精神が異常な狂人ばかりだ。一人残らず殲滅した方が世の為だろう。
「方針が定まらましたね、シスタークレア。まずは情報収集をします」
「はい。わかりました。神父様」
教会の一室で用意された晩餐を勢い良く食する。パンを一口大に引き千切って、シチューの中に少し浸して放り込む。クリーミーでジューシーな味わいが口の中に広がり、多福感を齎す。
これから厄介事がダース単位で飛んでくるんだ。食べれる内に食べてしまおうと口の中に次々放り込んでいく。他の聖王教会のシスター達が話しかけてくる。
「ユウさんは教会に住む前はどこにいたの?」
「ああ、オレは元々孤児だから、まぁ色んなところを転々としてましたよ」
「そういえば孤児院の子供達はどうしたんだ?」
「既に別の孤児院に避難済みだよ。此処が主戦場になるようだからねぇ」
少し無理矢理にシスターに話題を提供し、実は気になっていた事を聞き出す。
この聖王教会は孤児院と併設して作られており、この世界の最後のセーフティネットの役割を果たしている。だから確かに頭のおかしい連中の襲撃があった場所に子供達を置けない。隔離しておく方が安全だろう。
シスターたちは通常業務に加えて、自己防衛魔法が使えるらしく残っている。
「さて、どうなるかね」
ユウはシチューを食べることに意識を戻した。