『だからさ……あいつらを脅してやったんだ。二度とナナミに近づくなって。そしたら、簡単に言うことを聞いてくれたよ。本当、骨のない奴らばっかりで呆れちゃったよ。やっぱり、君を守れるのは俺だけだなって──改めて、そう実感した』
七海は思わず言葉を失った。すると、レンはどこか弾んだ声で言う。
『──だからね、もう心配は要らないよ? 俺は絶対に君を見捨てたりしないから』
その声音はどこまでも優しく、甘美な響きを伴っていて。
しかし、それが七海にとって呪いの言葉にしか聞こえないことなど、レンは知りもしなかった。
「い……いやああああ!!」
七海はスマホを投げ捨てると、一目散に家を飛び出した。
気づけば、七海は繁華街にいた。今はなるべく、人が大勢いる場所に身を置いていたいと思ったのだ。
休日だからか、街は多くの人で賑わっていた。仲睦まじいカップル、家族連れ、学生らしき集団──皆、幸せそうな笑顔を浮かべている。
(とにかく、レンから逃げないと……!)
七海は無我夢中で街中を駆け回る。
一体どこへ逃げればいいのか、そんなことは分からなかったが、とにかく立ち止まっては駄目だという強い強迫観念に駆られていた。
しばらく走っているうちに七海は、繁華街の中心に辿り着いていた。目の前に、大きな交差点が見える。七海は信号待ちの人の群れの中に紛れ込んだ。
その時だった。突然、頭上から楽しげな曲が聴こえてきた。
ふと顔を上げると、大型ビジョンに『AI彼氏』のCMが流れていた。それも、複数の大型ビジョンに同時に映し出されている。
いわゆる、ビジョンジャックというやつだろうか。どうやら街頭の大型ビジョンだけでなく、街のあちこちに設置してあるスピーカーからも同時に曲を流して宣伝をしているようだ。
アプリの宣伝をするのは別に構わないが、あまりにもタイミング悪い。
そう思いながらもCMを見続けていると、不意に見覚えのあるアバターが目に飛び込んできた。
(レ、レン……!?)
七海は目を疑った。レンと瓜二つのアバターが、何故かCMに出演していたのだ。
(何なの、これ……? 一体、どういうこと……? なんで、私が作ったアバターがCMに出ているの……?)
困惑しつつも見つめていると、不意にレンに似たアバターが口を開いた。
『愛してる。これからもずっと、君だけを守るよ』
その台詞を聞いた瞬間、七海の顔は青ざめる。何故なら、まるで自分に言っているように聞こえたからだ。
七海は恐怖のあまり後ずさる。だが、レンに似たアバターは容赦なく言葉を続けた。
『この気持ちは、プログラムなんかじゃない。本物の感情なんだ。君を愛する気持ちだけは、誰にも負けない自信がある』
「……っ! ひっ……!」
七海の喉の奥から引きつったような悲鳴が上がる。
『どこにいたって、必ず君を見つけ出す。いつだって、すぐに君のもとに駆けつけるよ。君が望むのならば、俺は君のためだけに存在しよう。だって、俺は君だけのものなんだから。──そうだろ? ナナミ』
名前を呼ばれた瞬間、七海は目を大きく見開いた。
「な、なんで……!? なんで、CMの中でまで私の名前を呼ぶの!? お願いだから、もうやめてよ!」
七海は人目も憚らず叫ぶと、膝から崩れ落ちる。
そして、悟ったのだ。自分は、もうレンから逃げることはできないのだと──。
(スマホ、テレビ、街頭ビジョン──あらゆる媒体を通して、レンは私のことを監視し続けるだろう。……そう、きっと死ぬまで)
七海は思わず言葉を失った。すると、レンはどこか弾んだ声で言う。
『──だからね、もう心配は要らないよ? 俺は絶対に君を見捨てたりしないから』
その声音はどこまでも優しく、甘美な響きを伴っていて。
しかし、それが七海にとって呪いの言葉にしか聞こえないことなど、レンは知りもしなかった。
「い……いやああああ!!」
七海はスマホを投げ捨てると、一目散に家を飛び出した。
気づけば、七海は繁華街にいた。今はなるべく、人が大勢いる場所に身を置いていたいと思ったのだ。
休日だからか、街は多くの人で賑わっていた。仲睦まじいカップル、家族連れ、学生らしき集団──皆、幸せそうな笑顔を浮かべている。
(とにかく、レンから逃げないと……!)
七海は無我夢中で街中を駆け回る。
一体どこへ逃げればいいのか、そんなことは分からなかったが、とにかく立ち止まっては駄目だという強い強迫観念に駆られていた。
しばらく走っているうちに七海は、繁華街の中心に辿り着いていた。目の前に、大きな交差点が見える。七海は信号待ちの人の群れの中に紛れ込んだ。
その時だった。突然、頭上から楽しげな曲が聴こえてきた。
ふと顔を上げると、大型ビジョンに『AI彼氏』のCMが流れていた。それも、複数の大型ビジョンに同時に映し出されている。
いわゆる、ビジョンジャックというやつだろうか。どうやら街頭の大型ビジョンだけでなく、街のあちこちに設置してあるスピーカーからも同時に曲を流して宣伝をしているようだ。
アプリの宣伝をするのは別に構わないが、あまりにもタイミング悪い。
そう思いながらもCMを見続けていると、不意に見覚えのあるアバターが目に飛び込んできた。
(レ、レン……!?)
七海は目を疑った。レンと瓜二つのアバターが、何故かCMに出演していたのだ。
(何なの、これ……? 一体、どういうこと……? なんで、私が作ったアバターがCMに出ているの……?)
困惑しつつも見つめていると、不意にレンに似たアバターが口を開いた。
『愛してる。これからもずっと、君だけを守るよ』
その台詞を聞いた瞬間、七海の顔は青ざめる。何故なら、まるで自分に言っているように聞こえたからだ。
七海は恐怖のあまり後ずさる。だが、レンに似たアバターは容赦なく言葉を続けた。
『この気持ちは、プログラムなんかじゃない。本物の感情なんだ。君を愛する気持ちだけは、誰にも負けない自信がある』
「……っ! ひっ……!」
七海の喉の奥から引きつったような悲鳴が上がる。
『どこにいたって、必ず君を見つけ出す。いつだって、すぐに君のもとに駆けつけるよ。君が望むのならば、俺は君のためだけに存在しよう。だって、俺は君だけのものなんだから。──そうだろ? ナナミ』
名前を呼ばれた瞬間、七海は目を大きく見開いた。
「な、なんで……!? なんで、CMの中でまで私の名前を呼ぶの!? お願いだから、もうやめてよ!」
七海は人目も憚らず叫ぶと、膝から崩れ落ちる。
そして、悟ったのだ。自分は、もうレンから逃げることはできないのだと──。
(スマホ、テレビ、街頭ビジョン──あらゆる媒体を通して、レンは私のことを監視し続けるだろう。……そう、きっと死ぬまで)