***

 夜眠りにつく前、瑠奈はよく、スマホで撮りだめている写真を眺めた。

 瑠奈のスマホのカメラロールに入っているのは、夕暮れの空の写真ばかりだ。

 防犯のために、と母から初めて子ども用スマホを持たされたのは、瑠奈が小学一年生のとき。母と一緒に買い物に出かけた帰りに何気なく見上げた夕方の空に、白銀の三日月がぼんやりと浮かんでいた。

 きれいだなと、ほんとうに何気なくスマホのカメラを向けたら、思ってもみなかったほど儚くて幻想的な写真が撮れた。瑠奈がスマホのカメラを空に向けるようになったのはそれからだ。

 太陽が昇ったばかりの朝焼けの空や、雲ひとつない晴れた空、雨が降る前の曇り空、星が輝く夜空。いろいろな時間帯の空にカメラを向けてみたけれど、瑠奈が一番心を惹かれるのは夕暮れの空だった。

 青く輝いていた空が、沈んでいく太陽の光で少しずつオレンジに染まり、最後は黒い闇に飲み込まれる。その光景に儚さを感じるし、抗うこともできずに黒の世界に飲まれてしまう夕焼け空が、十六歳で死んでしまう自分に重なるような気がした。