都内のオフィスで働く二十代の男性。TsukihitoというSNSのアカウント名は、本名の月人の英字表記。旅行と写真は学生時代からの趣味で、撮る写真は主に風景。空で起こる珍しい自然現象にも興味がある。
考えてみれば、瑠奈がツキヒトについて知っていたことといえばそれだけなのだ。話していたことも写真のことばかりで、それ以外の趣味も彼の仕事の内容も家族構成も、何も知らなかった。ツキヒトは何も言わなかったし、瑠奈も聞こうとはしなかった。
それなのに、SNSで交流した一ヶ月で、何もわからないツキヒトとの交流を楽しいと思い、彼のことを信頼しすぎてしまった。
だけど、ツキヒトはそうではなかった。彼は初めから今この瞬間までずっと、瑠奈の未来をどうやって断ち切るかしか考えていなかった。
ツキヒトに殺されるのだという恐怖と同時に、裏切られたという哀しみが瑠奈の胸を支配して息苦しい。
「ツキヒトさん……。あなたは私にとって、初めて信頼できると思えた人だった。無事に十六歳の誕生日を越えられて、これからもあなたと関わる未来があるのかと思うと嬉しかったのに……」
いつ最後になるかもしれない言葉を紡ぎながら、瑠奈はツキヒトのことを信頼し過ぎてしまった自分の誤ちに気が付いていた。