「君に近付いたのは、君の父親から大切なものを奪うためだよ。俺が莉桜を突然奪われたみたいに。莉桜が死んだのは十六歳。だから、君が十六歳になるのを待っていた。思った以上に警戒心が強くて苦労したけど、それも案外おもしろかったかな。なかなか懐かない猫を手懐けるみたいで」
苦労したけど、おもしろかった。
そう言うツキヒトの言葉に、瑠奈はショックを受けていた。海から吹いてくる冷たい風が瑠奈の頬や体を冷やし、少しずつ体温を奪っていく。
DMのやりとりのなかでも、昼間のカフェでもずっと優しかったツキヒトが、そんなふうに思っていたことが信じられなかった。
ツキヒトにとって、瑠奈と交流していた一ヶ月間はゲームのようなものだったのだ。なかなか懐かない猫を手懐けて、気を許したところで崖から突き落とす。最低で、残虐な復讐という名のゲーム。
だが瑠奈は、唇を歪めて笑うツキヒトの正体を知っても、彼のくれた言葉が全て嘘だとは思いたくなかった。
写真をうまく撮る方法を教えてくれたとき。珍しい自然現象について熱く語ってくれたとき。予知夢に怯える瑠奈に送ってくれた、見ると幸せになれるというグリーンフラッシュの動画。瑠奈の誕生にSNSに投稿してくれた空の写真やコメント。無事に十六歳を迎えた瑠奈に言ってくれた「おめでとう」の言葉。
瑠奈の心に響いたいくつかの言葉やできごとの中に、ツキヒトの本当の気持ちは一ミリもなかったのだろうか。