今の状況は、確実に危ない。ツキヒトから少しでも距離をとらなければならない。
頭ではわかっているのに、自分が置かれている状況を現実として受け止めることができない。
どうしてツキヒトさんが……?
瑠奈の胸にそんな疑問ばかりが浮かぶ。
心のどこかで、彼がさっきまでのツキヒトに戻って「冗談だよ」と瑠奈に優しく笑いかけてくるのではないかという期待すらあった。でも、ツキヒトがふっとこぼしたのは、瑠奈への嘲笑。
「予知夢の話を聞いたときは、たしかにちょっとびっくりしたかな。でも、予知夢が外れた君をぬか喜びさせたあとに命を奪ったほうが、より絶望が深いかなって思った。君が命を落とすのは、初めから今日だったんだよ。今から俺が、君の予知夢を現実にしてあげる」
ニヤリと唇を引きつらせた男は、もはや瑠奈の知らない人だった。
恐怖に体が震え、足から力が抜けていく。腰を抜かした瑠奈が、ぺたんと岩の上に尻もちを着くと、ツキヒトが彼女を見下ろしてほんの少し目をすがめた。
「でもまあ、少し昔話をしてあげてもいいかな。ここへはどうせ誰も来ないだろうし。君もこのまま理不尽に殺されたくないだろうから」
そう言って瑠奈の前にしゃがんだツキヒトが、バタフライナイフの先を岩にガチッと突きつける。ビクリと肩を震わせる瑠奈に、ツキヒトがニコリと冷たく笑いかけてきた。