ツキヒトの顔の上半分にはキャップのツバが黒い影を作っていて、そこから瑠奈を覗くふたつの目が鋭く光っている。身体の自由が効かなくなりそうなほどの強い眼差しには、妙な既視感があった。

 何かを思い出しかけて、ドクンと心臓を震わせた瑠奈は、ツキヒトが右手に何かを持っていることに気が付いた。すぐに、それが大きめのバタフライナイフだとわかり、背筋がゾクリと冷たくなる。

 何が起きているのか、わからなかった。

 待ち合わせ場所で初めて顔を合わせたツキヒトは整った顔立ちをした優しく笑う大人の男性で、今瑠奈の目の前で薄気味悪く口元をニヤつかせている男ではない。

「あなたは誰なんですか?」

「ツキヒトだよ」

 冷たい声で発音されたその名前が、瑠奈には初めて聞く人の名前のように思えた。

「ルナちゃん。自分の未来を信じて過ごせた今日までの二週間はどうだった? 残念だったね。君の予知夢は外れたわけじゃなくて、予定が少しズレてたみたいだ」

「な、にを言ってるんですか……。予知夢なんて、現実的でないって、何かが起きたあとに誰かがこじつけてるだけだって。そんなふうに言ったのはツキヒトさんでしょ?」

 問いかける瑠奈の声は震えていた。