わたしにも、未来に繋がる明日がある……。
瑠奈はスマホのカメラを途中から動画に切り替えた。太陽が姿を変えてゆっくりと水平線の向こうへと沈んでいくのを記録しながら、瑠奈自身の目にも焼き付ける。
細い線のような光になった太陽が水平線の向こうに消える間際、瑠奈は名残惜しい気持ちでツキヒトに声をかけた。
「もう消えちゃいますね」
「そうだよ。君も一緒にね」
思わず背筋が凍るような、低く冷たい声がする。ザリッと小石が擦れるような音に振り向くと、キャップで顔を隠すようにしてうつむいたツキヒトが、瑠奈の後ろに立っていた。その距離が不自然なほどに近い。
夕日の写真を撮っていると思っていたツキヒトの首には、カフェで待ち合わせたときにかけていた一眼レフがない。ツキヒトがここまで持ち運んできた黒のボストンバッグに三脚や他の機材と一緒に入れてあるのかと思っていたが、それは彼の後ろに置かれたままだった。
「ツ、キヒト……さん?」
あきらかに、様子がおかしい。瑠奈が戸惑い気味に呼びかけると、顔をあげたツキヒトが片方の口角だけをあげてニヤリと笑う。
この男はいったい誰なのだろう。そう思うくらい、その笑顔はカフェで瑠奈に優しく笑いかけてきたツキヒトのものとはかけ離れていて。ひどく薄気味悪い。