瑠奈が一歩一歩足踏みしてしまうような場所も、大きなカバンを持ったツキヒトはひょいと軽々越えていく。いろいろな場所に出かけて写真を撮っているツキヒトは、カメラや機材を抱えて足場の悪い道を歩くことにも慣れているらしい。瑠奈はツキヒトに後れをとらないように、懸命に歩いた。

 しばらくして、瑠奈とツキヒトは海の見える開けた場所にたどり着いた。地面はごつごつしたり、尖っている岩ばかりだが、その向こうにツキヒトの写真で見たのと同じ、岩礁の浮かぶ海が見える。

 太陽は既に少し傾き始めていて、海の色も深い青に染まり始めていた。

「あの辺が立ちやすいと思う」

 瑠奈を振り返ったツキヒトが、一メートルほど先の大きくて平らな岩を指さす。ふたりは、ツキヒトが指した大きな岩まで歩いていって、海に向かって並んで立った。

「綺麗ですね……」

 険しい岩場を乗り越えてきた達成感もあり、目の前に広がる風景がことのほか美しく思える。

 瑠奈はスマホを取りだすと、ツキヒトが撮っていたのと似た構図になるように太陽の沈みかけている海を写した。少し後ろに下がったツキヒトが、ボストンバッグを置いているような気配がして、瑠奈の背後で物音がする。

 ツキヒトも、写真を撮るのだろう。

 夕日は、沈み始めると落ちてしまうまであっという間だ。瑠奈は夕日と海にスマホを向ける手の位置を固定すると、視線は少しずつオレンジに染まっていく空の色の移り変わりや、海の青がだんだんと濃く深くなっていくのを一瞬も見逃すまいとじっと見つめた。実際に、自分の瞳に映す風景は写真で見るよりもずっと幻想的で綺麗だ。

 空が完全にオレンジ色になると、黒い闇が上から少しずつ現れてオレンジ色を侵食していく。瑠奈の目には、その光景がいつも、暗闇がオレンジ色の空を容赦なく飲み込んでいくように見えていたが、今日は少し違った。黒い闇に押されながらも、水平線に沈むその間際まで赤く輝こうとする夕日が、明日へと繋がる光のように見える。