ツキヒトが連れてきてくれたのは、カフェのあった駅から高速をつかって一時間ほど車を走らせた場所だった。
ツキヒトと一緒に音楽を聴いたり、写真の話をしながら移動する車内はとても楽しく、瑠奈にとってはあっという間の一時間だった。
車を停めて瑠奈を車から降ろしたツキヒトが、トランクから大きな黒いボストンバックと黒っぽい迷彩柄のウィンドブレーカーを取り出す。
「海辺は寒いかもしれないから、着る?」
ツキヒトは自分で迷彩柄のウィンドブレーカーを羽織ると、瑠奈に別の似たような黒のウィンドブレーカーを差し出してきた。たしかに海のほうから吹いてくる風は少し寒い。
「ありがとう」
少し迷ったが、お礼を言って受け取ると、ツキヒトが貸してくれたウィンドブレーカーに手を通す。男物のそれは瑠奈には随分と大きくて、袖を三回くらい折って長さを調整した。
「日没まではまだ時間があるから、少しだけ歩くね。岩場だらけの場所だけど、ほとんど人の来ない穴場があるんだ。ルナちゃんが気に入ってくれた写真も、そこで撮ってる」
瑠奈がウィンとブレーカーを着るのを確認すると、ツキヒトはボストンバッグと一緒に手に持っていた黒のキャップを顔を隠すように深くかぶった。
ツキヒトに連れられて進んで行く海岸に向かう道は、彼の言っていた通り、ごつごつした岩の多い歩きにくい場所だった。