「ツキヒトさんは、よくこういうカフェに来るんですか?」

「たまにね。といっても、誰かに付き合わされてってことがほとんどだけど」

「そうですか……」

 誰かというのは、親しい女性や恋人だろうか。なぜか、ツキヒトがクラスメートのカナミのように明るく社交的な女性とカフェの席で向かい合って座る姿が思い浮かんで、瑠奈の胸がチクリと痛む。

 瑠奈が膝の上に置いた手を見つめてうつむいていると、ツキヒトがふっと笑った。

「でも、こんなふうに女の子とケーキを食べにくるのはかなりひさしぶりかも」

「え?」

 顔をあげると、テーブルに肘を付いたツキヒトが首を傾げながらにこっと笑いかけてくる。ツキヒトの優しい笑顔に、瑠奈の胸の痛みは消えて、今度はそわそわと落ち着かない気持ちになる。

 しばらく待っていると、瑠奈の前にイチゴや生クリームやソースがかかった見た目からして間違いなく美味しそうなパンケーキが運ばれてきた。初めて実物を見た瑠奈は、ついスマホカメラのシャッターを切る。

「美味しそうだね。映えそうだし、つい撮りたくなっちゃう気持ちわかるよ」

 ツキヒトが、運ばれてきたコーヒーのカップに手を伸ばしながら笑う。ツキヒトに言われて、瑠奈は自分が無意識にパンケーキの写真を撮っていたことに気が付いた。

「わたし、空以外のものにカメラを向けたの初めてです」

 瑠奈は、十六歳を越えた自分の変化に戸惑いつつも驚いていた。でも、その変化は決して嫌なものではない。

「これから、もっといろいろなものにカメラを向けられるといいね」

 ツキヒトがそう言って、目を細める。

「そう思います……」

 ツキヒトの言葉に頷きながら、瑠奈は自分の心に明るい光が差し込んでくるような気持ちになっていた。