「俺も一応ケーキを食べられそうなカフェを調べてきてるけど、ルナちゃんは行きたいところある?」
「いえ、特には……」
これまで、ろくな人付き合いをしてこなかった瑠奈は何も知らない。人気の店も、流行も。そういうものに対して興味はなかったし、無知なことを気にも留めてこなかったが、目の前のかっこいい男性にそれがバレるのは少し恥ずかしいような気がした。
「ツキヒトさんに任せます」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
ツキヒトが瑠奈の顔を覗き見るようにして、にこっと笑う。キャップのツバを下げて顔を隠して頷きながら、瑠奈はそわそわと少し落ち着かない気持ちになった。
ツキヒトが連れて行ってくれたのは、待ち合わせた駅から徒歩五分の場所にあるカフェだった。
瑠奈も、一年に数回は両親に連れられて外食をすることがある。それはだいたいが父好みの高級レストランで、ステーキやら和食懐石やらを、瑠奈たち家族のために予約された個室で静かに黙々と食べるのだ。
だが、ツキヒトに連れてこられたテラス付きのカフェは、今まで瑠奈が両親に連れて行かれていたレストランとは違って明るくオープンな雰囲気だった。