ツキヒトが瑠奈と会うのに指定してきたのは、瑠奈の誕生日から二週間後の八月の平日だった。瑠奈の学校は夏休み中だったが、その日はツキヒトも会社から休みをもらっているらしい。
約束の日。空は朝からよく晴れていた。待ち合わせ場所を決めるために、ツキヒトと初めてお互いの住んでいる場所を教え合った瑠奈は驚いた。ツキヒトの住んでいるのは、瑠奈が通っている学校の近くだったのだ。
瑠奈が通学で利用している鉄道の駅を、ツキヒトも毎日通勤で利用しているらしい。もしかしたらこれまでに、気付かずすれ違っていたこともあったのかもしれない。
待ち合わせは、午後二時。複数の路線が通る中枢駅の改札を出たところにある、コーヒーショップの前だった。
誰かとの待ち合わせが初めての瑠奈は、約束の日の朝から少し緊張していた。
日頃からひとりで出かけることすらなかった瑠奈には、持ち合わせの私服が少ない。Tシャツと黒のスキニーを着て、ツキヒトとの待ち合わせのときの目印となるようにキャップを被って家を出ようとしたら、母が珍しがって声をかけてきた。
「人と待ち合わせをしている」と言うと、母は「楽しんできてね」と笑っていた。その声が少し嬉しそうだったのは、瑠奈の気のせいではないと思う。