「置いてある誕生日ケーキは夜にでも食べましょうか。お父さん、今日は少し早めに帰って来られる?」

「ああ、なるべくそうできるようにする」

「お願いね」

 母が父と話しながら、冷蔵庫からケーキの箱を取り出す。

「瑠奈ちゃん、見て。今年のケーキはフルーツタルトにしてみたのよ。毎年イチゴのショートケーキだから、たまには趣向を変えてみるのもいいかと思って」

 母が箱から出して見せてくれたケーキには、イチゴ以外にもマスカットやブルーベリーなど、色とりどりのフルーツが散りばめられていた。瑠奈が何度も予知夢で見てきた十六歳の誕生日ケーキとはまるで違う。

 胸がドキドキした。やはり、瑠奈の予知夢は現実にはならないのだ。

「瑠奈、お誕生日おめでとう」

 隣でコーヒーを飲んでいた父が、瑠奈を見て目を細める。

「ありがとう」

 今年の父からのお祝いの言葉は、格別に嬉しく感じた。