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勢いよく跳び起きた瑠奈は、見慣れた部屋の風景に安堵した。
ベッド脇の窓にかかっているのは、薄いブルーのカーテン。シンプルな卓上カレンダーがひとつ置かれただけの学習机、日本や世界の風景の写真集がいくつか並ぶ本棚、女の子の部屋なのに地味すぎると母が置いた手作りのブリザードフラワー。瑠奈の部屋で唯一華やかなそれは、数多くある母の趣味のうちのひとつだ。メインの花の色は鮮やかすぎるくらいの赤。それが、夢で見た夕暮れの空や謎の幾何学模様を思い出させて、身震いしそうになった。
部屋の温度はそれほど高くないのに、布団をつかんだ手のひらにじっとりと汗をかいている。心臓が正常時よりドキドキしているのも、胸が痛いような気がするのも、全て夢のせいだ。目を閉じて深呼吸すると、瑠奈はいつものように心を静めた。
大丈夫。わたしはまだ、十六歳にはなっていない。
何度も胸に言い聞かせてきた言葉は、ただの気休めでしかない。
今朝の夢は、今までになくリアルだった。十六歳の誕生日まで、あと三か月。誕生日が近付くにつれて、夢の中で命を落とす瞬間のリアル感が増しているような気がするのは、瑠奈の気のせいではないと思う。