ダイニングテーブルの上には、イチゴののったホールケーキ。ケーキに挿した七本の蝋燭の炎がやけに赤く輝き、揺らめいている。長いろうそくが一本に、短いろうそくが六本。用意されているのは、瑠奈の十六歳の誕生日ケーキだ。
父と母が瑠奈に優しく微笑みかけてくる。小さい頃によく見ていたような、温かで幸せそうな笑顔だ。両親の期待の眼差しに応えて、ケーキに顔を近付ける。
「瑠奈、お誕生日おめでとう」
両親の声がハモる。胸いっぱいに息を吸い込んで、一気に蝋燭の火を吹き消す。
暗転。次の瞬間、場面が切り替わり、自宅のリビングにいたはずの瑠奈は足場の悪いゴツゴツした岩の上に立っていた。温かかった空気が一瞬にして冷たくなり、体が悪寒で震える。
背後に気配を感じて振り向くと、大きな黒い人影が立ちはだかっていた。その向こうに、茜色に染まる空が見える。その色が眩しすぎて、人影の顔はよく見えない。
黒子のような輪郭の中で、ふたつの目だけがぎらりと血走っていて。その眼差しの異様さにたじろぐ。
一歩足を引こうとした瑠奈の目の前で何かがギラッと光って、胸に架空の痛みが襲う。閉じた瞼の裏で、赤と黒の幾何学模様がでチカチカとする。そのときにはもう、わかっている。
これは夢だ。何度も繰り返し見ている悪い夢。だから、早く目覚めなければ……。わたしはまだ、十六歳にはなっていない。