顔をひょっこり覗かせたのは、一人の青年だった。二十代中頃で、目元に黒子のある爽やかな好青年だ。

 まさか彼も女性だと言うじゃないだろうな、とエリザが疑ってしまうほど体躯も男性そのものだった。

「おう、ちょうどここにいるよ」
「あ、良かった。時間がないということだったので、約束通り、少し早めに注文されていた煙草を届にまいりました」

 その青年は、アルトの心地良い声をしていた。目が合った際、にっこりと微笑みかけられたエリザは不思議な色気にどきどきした。

「おぅ、そうだったな」

 サジが、どこか棒読みで口にしながら顎鬚に触った。

「すまねぇが今、坊ちゃんと魔法使い様が来て手が離せねぇんだ。休憩室に入れてもらってもいいか?」
「いつもの奥の部屋ですよね?」

 青年が指を差すと、サジがニヤニヤしながら「ああ、そうだ」と頷き返した。

 ジークハルトは、その青年の方を見ないばかりか、厨房の台に視線を向けたまま硬直していた。気のせいか、その身体が僅かに震えているように見える。