にっこりと笑いかけると、モニカもにこっと笑い返してきた。

 そのまま、僅かに不自然な間が置かれたのを感じた。彼女の笑顔を見て、エリザは何かを伝えようとする意図を感じ取る。

 耳を澄ませてみると、どこからか軽い足音が聞こえて来た。

(ああ、なるほど。ここにも仕掛けがあるわけか)

 エリザが把握したと伝えるべく小さく頷き返すと、モニカが『用意はいいですか』と確認するみたいに浅く顎を引く。

 一人、事情を知らないジークハルトがゆったりと音の方向へ顔を向けた。

 奥の廊下の曲がり角から現れたのは、茶色のジャケットとサスペンダー付きのズボンに、ベレー帽を被った少年だった。エリザよりも一回り小柄で、やや幼い印象の丸みを帯びた顔には愛嬌がある。

 その少年が駆けてきた。モニカに目を留めると、「いたいた」と言って手を振る。

「モニカさん、パパが馬具の件で――」

 そう告げながら少年が迫った時、ジークハルトが突然「うわぁ!」と叫んで飛びのいた。