「何かあれば、あなたが守ってくれると父から聞いているので安心です」

 あなたの本能、どこか故障しているのでは。

 思わず心の中でツッコミした。

(守るってなんだ。相手はか弱い女性なんだけど、詳細を知っている側からみるととことんヘタレ野郎だよ?)

 エリザは顔が引き攣りそうになった。

 それが顔面に滲みでしていたのだろう。セバスチャンから目配せをされて、咳払いをする振りで表情を戻す。

 治療係がいれば大丈夫、と彼が思ってくれるのもまたいい兆候だ。

 これは彼が出歩ける環境を作れるチャンスである。

 ジークハルトには悪いが、彼の女性恐怖症がどれだけのものか確認したくもある。ラドフォード公爵が張っているという罠、もとい作戦に乗り出していただこう。

「お任せください、ジークハルト様。あなた様は私が守りますので、積極的に出歩くべきです」

 エリザは凛々しい顔でそう言い切った。

 なんとも正義感を漂わせ見事な嘘を断言しきった――と、のちに屋敷内で使用人が話しているのを聞くことになる。