しかし、この男の恰好で『エリザ』と名乗ると、相手が性別を勘違いしていた場合は『実は女性なんですよ』言葉を続けるのもややこしい。

 すると、数秒もしないうちに扉がゆっくりずつ開かれた。

 そこから、騎士服に身を包んだジークハルトが顔を覗かせた。一回目の対面と変わらず、明るい栗色の髪が似合う眩しすぎる美しいお顔である。

 ――扉から頑なに手を離さず、廊下の左右を確認していなければ完璧だったに違いない。

「ジークハルト様、いったい何をされているのでしょうか」

 エリザは、ひとまず笑顔を作って尋ねた。なんとなく推測できたので、こうでもしていないと顔面に全部思いが出そうだ。

「じょ、女性が隠れたりしていませんか?」
「隠れていません。ここにいるのは、私とセバスチャンさんだけです」

 もしや、とエリザは不意に思い至る。

(本能的に、目の前にいる私が女性だと勘付いているとか?)

 ジークハルトから距離を取ろうとしたエリザは、ほっとした彼の、続いた言葉を聞いた途端に拍子抜けした。