「でも、やはり私は専門家ではないですから、お試しで治療係をするには不相応――」
「隣国までの旅費も約束しよう」
「臨時の治療係としてやらせて頂きます」

 エリザはすかさず答えた。

 それを見たラドフォード公爵が目を丸くし、それからふっと破顔した。

「異国からたった一人で来たというのに、君はなんとも……」
「なんとも?」
「偉大な魔法使いにこんなことを言うのも申し訳ないのだが、怒らないでほしい。警戒心がないなぁと思ってね。誰か、とても優しい良い人間が守って教えてくれていたみたいだ」

 ふっと、エリザは師匠ゼットのことが頭に浮かんだ。

 でも、ラドフォード公爵が何を言っているのかは、よく分からなかった。考えた末、小首を傾げると彼が口に手をやって「ぶふふっ」と噴き出した。

「ふふっ、ふ、すまない。【赤い魔法使い】という名前まで与えられたのに、不思議な子だねぇ。ひとまず、これからしばらくよろしく頼むよ」

 立ち上がり、手を差し出された。

(まさか、ルディオが話していた問題児の治療係になってしまうとは)

 人生とは分からないものだなぁと思いながら、エリザも立ち上がり、弱々しく彼と握手を交わしたのだった。