「……あの、大変申し訳ないのですが、私は色々と噂されていることもありますし、公爵家の嫡男様の治療係には相応しくないかと。私のこの国の人間でもないですし、事情があって少し滞在していただけなので、そろそろ次の国に行こうかとも考えていまして」

 するとラドフォード公爵が、きょとんとした顔をして「知っているよ?」と言った。

「はい? 知ってる、て……?」
「殿下が、君のことをすぐに調べてね」

 ひぇ、殿下って言っちゃったよこの人。

 とんでもない名前が出てきて、エリザは背筋がひゅっとした。

「恐ろしい魔法使いであるという噂が嘘であること、道で困っている人がいたら手助けをする良き人間であることは確認済みだ。勉強のためこの国の本を求め、魔法を大っぴらに使いもせずひっそりと暮らしている姿勢にも感心されていた」

 考えてみれば、ここは公爵家だ。

 出入りさせる人間は、そもそも先に調べているだろう。

(ああ、だから安心して私を出迎えたわけか……)