「本名はもういいやと思っていて、聞かれないまま名乗るのはジークハルト様が初めてですからね。それで勘弁してれると有難いです」
「俺が初めて……」
「はい。私の名前は、エリザです」
「お、俺はジークハルト・ラドフォードですっ」

 なぜか、彼まで名乗ってきた。

 彼女は目を丸くした。それだけ挙動不審になっているのだと察して、思わず笑ってしまった。するとジークハルトも、ようやく緊張していた表情を崩す。

「エリザ、……エリザですね」

 彼は、噛み締めるように呼んで、言う。

「エリザはいつも俺の予想を超えてきますね。眩しいくらい時々かっこよくて、俺にはない自信があるというか。ますます惚れてしまいます」

 急に、軽く抱き締められて胸が高鳴った。

 彼に『エリザ』と名前を呼ばれると、フィサリウス達に口に出された時とは違うモノを感じた。

 鼓動が熱を持つというか、彼の声だけ特別な色合いで胸にしみ込んでくるというか――。

「もっと、あなたを好きになってしまいます」

 エリザはどきどきしてきた。