「心配しなくとも、ラドフォード公爵達も大歓迎の様子だっただろう?」
「まぁ……そうですね」

 ジークハルトが女性に触っても大丈夫になった。そのうえ、念願の『花嫁』を選んで、決めてくれた。

 それでいてその相手が『エリザなら嬉しい』と――みんな隠しもしなかった。

 だから昨日もテンションが高かったのだとエリザは気づいた。彼らが呪いの解ける日を楽しみにしていたのは、ジークハルトのことだけじゃなくて、エリザがあの屋敷の〝一員〟になってくれることを思ってだったのだ。

「婚約はまだ仮の状態だから、正式な公表はされていないよ」

 扉を開けながら、フィサリウスがそう言った。向こうから顔をのぞかせたハロルドが、女性相手に対する騎士の挨拶をしてく。困ったような、それでいてどこか納得したような苦笑をその顔に浮かべていた。

「交際期間だと思えばいい。考える時間はあるし、今後色々と動くにしても都合がいい。君の住所と身元も仮ながら発行されたし、身分証があれば君もこの王都をもってよく楽しめると思うけど?」

 強気な笑みと共に、彼の姿は、ハロルドが外から閉めていった扉の向こうへと消えていった。

 彼にしては、時間いっぱい話し続けた感じだった。

(『いて欲しい』、『友人』……全部本音なんだろうなぁ)

 涼しげな表情をしていたけれど、エリザは仮の状態であるこの婚約も、彼女次第ではなくせるとはラドフォード公爵にきちんと説明されていた。

 それを知っても、切り出さずにジークハルトといつも通り『いってきます』と言い、ルディオとも一緒になって公爵邸を出た。

 三人一緒に――それが、もうエリザの出した〝答え〟そのものだった。