「殿下は……案外、お人が悪いですね」
「ふふっ、君には情で訴える方が効果があると思ってね。それはジークハルトも分かり切っていることだろうけれど」

 あの、わんこみたいな目のことだろうか。

「ははぁ、なるほど……彼、意外と策士だったんですね」
「私の右腕なんだ。当然だろう。それにね〝エリザ〟」

 彼は穏やかな笑みを浮かべ、続ける。

「これからも一人でずっと旅を続けていくなんて、寂しいじゃないか」
「…………」
「いつか落ち着ける場所ができて欲しいと思って、君の師匠とやらも『勇者』も『聖女』の身分も知らない大陸に送ったのではないかな。私としても、そろそろ古郷という場所ができてもいいと思うんだ」
「それが、殿下のいるココですか?」
「そう、ゆくゆくは私が治めるこの国だ。そしてぜひ、いつでも会える王都にいて欲しいね。ああ、言っておくけど、珍しい異国の人間だからとかいう理由ではないよ。君は私の友人だからね」

 扉の外からノックがされ、ハロルドの声がした。

 迎えが来たようだ。フィサリウスが行くと答え、立ち上がる。