その声は低すぎるでもなくも、大人の男性の魅力が詰まったものだった。大変自信がなくて怯えているが、無駄に色気がある。

(なるほど。モテにモテている美形……)

 一度声の近さには驚いたものの、エリザはときめいたりしない。

 とにかく仕事を果たすべく、もう一度扉を少し叩く。

「メイドはいません。ですから開けてください」

 すると、部屋の中でようやく、もぞもぞと人の動く気配がした。

「……本当ですか? どこかに女性は隠れていたりしませんか? メイドが俺の部屋に入ろうとするのです。部屋を出たら奇襲に遭いませんか?」

 とんだ自意識過剰、いや、被害妄想野郎だな!

 エリザは心の声を抑え、低い声で「いいえ」と断言した。

「メイドさんは、恐らく仕事で貴方の部屋を掃除しようとしていただけでしょうし、公爵邸に侵入するような令嬢はおりません」
「では、先にルディオだけ入れてください。彼にも確かめてから――」

 続く言葉に、プチリ、と頭の中で何かが切れる音がした。