けれどジークハルトはここ最近、自分のコネや法的手段を活用して、エリザとの婚約申請を見事に通してしまったようだ。

 そうして数日前、彼には意中の相手がいるとして見合いの申し込みも締め切られた。

 そのお相手が、治療係にして【赤い魔法使い】のエリザだ。

「なんでそんなことになっているの……」

 王宮の豪華な一室で、エリザは額を両手で押さえて大きな溜息を吐いた。

「まぁ、先日のアレが呪いのせいではなかったと分かって、聡明な君もとっくに気づいているとは思うけど」

 向かいでそんなことを言ってきたのは、部屋の主であるフィサリウスだ。

「知っていたのなら教えてくださいよ……」
「無理だよ。ジークに口止めされていたし」
「なぜ」

 そもそもなぜジークハルトは、という言葉を思いながら顔を上げる。

「君に邪魔されたくなかったからじゃない?」

 フィサリウスは残っていた紅茶をぐいーっと一気に飲み干すと、ティーカップをテーブルに戻した。

「そういうことは、本人から聞くといい。朝はそんな暇がなかったんだろう?」