その時、モニカがジークハルトの前に立った。

「これぐらいの耐性で言い気にならないでくださいませ、坊ちゃま」

 見下ろす彼女の視線は冷ややかだった。ジークハルトの笑顔が、わずかに強張ったのをエリザは見た。

「さ、行きますよ」

 そう言って、モニカが彼の襟をしっかりと掴まえた。他のメイド達も周囲から掴んできて、ジークハルトがビクッとする。

「坊ちゃまは身支度もまだです。全員で、丁寧に仕上げて差し上げます」
「ひぃっ、い、嫌です! エリザのところに帰してくださいっ、まだちょっとしかキスしてな――」
「二人きりでお会いして、押し倒していたのですから活力もじゅうぶん戻りましたでしょ。それ以上品を落とすようなことをおっしゃいましたら、昔のように、貴族の男子たる教育論をたっぷり解いて差し上げますわよ」

 母親代わりとしてジークハルトをみてもいたというモニカは、視線も寄越さないまま慣れたように言い、メイドたちとジークハルトを引きずって部屋を出ていった。