「大丈夫ですよ、あなたが嫌がることはしませんから――」

 彼の影がエリザにかかって、あ、という言葉も間に合わずに二人の唇が重なった。

 触れる程度の柔らかい何かを唇に感じた。

「――……ほら、ね? 何も怖くないですよ」

 少し離れ、ジークハルトが愛おしげに見下ろした。

 エリザは口付けをされたと理解するまでに、数秒かかった。顔を起こした彼の、形のいい唇を茫然と眺め、それから自分の唇に残る感触を思い返す。

「怖くなかったでしょう?」

 だから、もう一回……

 心底嬉しそうな柔らかい微笑みた彼が再び近づき、至近距離からうっとり囁かれた。

 その瞬間、エリザの羞恥が理解と我慢の限界を超えた。

「ぴ」
「ぴ?」
「ぴぎゃあああぁあぁあぁ!?」

 なんとも色気のない必死の悲鳴が口から飛び出した。

 その次の瞬間、大勢の慌ただしい足音が近づき、蹴破られるようにして勢いよく扉が開かれた。

「最悪だっ、やっぱりここだった!」
「すぐにジークハルト様を確保!」

 セバスチャンの切羽詰まった指示の声の直後、ルディオ、サジ、男たちが室内になだれ込んできた。