「とりあえず先に既成事実を作りましょうか。大丈夫、俺が教えますよ。何も怖くないですからね?」
「『ね』じゃないですっ、既成事実ってハッキリ言っちゃってる時点でアウトですよ!」

 まさかの、彼の口から聞くとは思ってもいなかった言葉だ。

「まず同意を求めないでください! だめに決まってるでしょうが!」
「それじゃあ、まずキスからしましょうか」

 ジークハルトが顔を寄せてくる。エリザは手に力を入れたものの、上から彼が押さえつけている力の方が圧倒的に強かった。

「ま、待ってください、同性同士だと思っているかもしれませんが、私は――」
「焦っている姿もとても可愛いですね」
「か、かわっ」

 甘ったるい低い声で囁き、彼の目が蕩けるように細められたものだから、エリザは混乱よりも羞恥が勝って顔が赤くなった。

 まるで、眼差しで好きだと言われているような錯覚が強烈に込み上げた。

 エリザの思考は圧倒し、固まってしまった。

「そう、いい子ですね」

 彼の栗色の髪が、頬に触れた。