ひとまず、落ち着きたい。思考が回らない。

 まさか彼が分かっていてそこに横になっていた――なんてことは、ないはずだろうし。

 ここは治療係として確認もしなければならない。そう己を奮い立たせ、エリザは探るように彼を注意深く観察しながら尋ねた。

「えぇと、解呪薬が効いたか確認したので質問しますね。絵本を読んで欲しいだとかいう大人らしかぬ思考は残っていますか?」
「いいえ。きっとあの薬が効いたのでしょうね」

 子供みたいな思考という遠回しのことに応えたのか、にっこりと魅力溢れる大人の微笑みを返された。

 エリザは、それなのにどうして寝室に勝手に入ってきたのと思って、口元が引きつりそうになった。

 呪いがなくなった。つまり、エリザの聖女の力云々はもう関係がなくなった。

 それなのに、ジークハルトの『すぐにでも会いたい』という昨夜までと変わらない反応に、説明がつかない。

(聖女の作用の安心感が消えたら、本能で女性への苦手意識の方が増すはずじゃ……?)

 彼の反応からするに、まだエリザを同性だと信じているのだ。