温かい壁だ。

(――うん? 壁?)

 ぺた、ぺたと寝ぼけて重い手を動かしたら、それがくすぐったがるみたいに少し揺れた。

 びっくりして手を止め、目をぱちりと開けた時だった。

「ああ、起きましたか? もう少し触ってくれていてもよかったのですが」

 とても耳に心地のいい声が聞こえた。

 常々腰砕けの罪な声だとは思っていたが、寝起きに近くで甘く囁かれた途端――エリザは真っ赤になる。

「何せ、可愛かったですからね」

 壁に置いていたと思っていた手を、温かさに包み込まれ、頭の上にそっと柔らかい何かを落とされる。

 ――これ、キスでは。

 エリザはコチーンと思考が固まった。信じられなかったせいだ。でも、とにかく現状を確認しなければ……と思って、恐々と視線を持上げた。

「おはようございます、エリオ」

 そこにはエリザの片手を握って、にこっと笑いかてくるジークハルトの姿があった。

 彼が、そこで添い寝しているのを見てエリザは短い悲鳴を上げた。